1万年前の技術にチャレンジ |
今から600万年前、二足直立歩行を開始した私たちの祖先は「自由な手」を獲得した。石を素材に道具をつくりはじめた人類は、気の遠くなるような長い時間をかけ少しずつ改良を重ねながら高度な技術を習得していった。人類史の99.9%は石器時代だといわれる。 金属の発見により、意識からは消し去られた石器製作技術だが、あなたの「自由な手」には、その記憶が残されているに違いない。 |
1.黒曜石の割れ方の特徴 | ||
写真は黒曜石の原石に見られる打撃痕。自然の中で黒曜石より硬い石がぶつかり出来たと思われます。円錐の頂点に打撃のあとが残されています。 黒曜石に加えられた衝撃が波のように円錐状に伝わる石の割れ方の特性を示しています。 |
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人工的に円錐が作れるかどうかテストした結果、全く同様の円錐の打撃痕を作ることが出来ました。 自然現象で割れた上記の写真と全く同じ角度でした。 円錐の大きさの違いは、打撃の力の違いによります。強くたたくと大きな円錐になりますが、強すぎると石がバラバラに砕けてしまいます。 |
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次に、川原で採取した黒曜石の原石を、他の石で割るとどのように割れるかのテストです。上部に打撃を加えると斜めに割れますが、この角度は円錐の角度とほぼ同じです。割れた面は左側が貝殻上に緩やかな凹面となり右側は凸面となります。 黒曜石の割れる角度を知ることが石器づくりの基本的なポイントになります。 |
2.石器づくりの道具 | ||
私の場合、石器づくりの道具は四つです。 *エゾシカの角の先端部(左) ・・・押圧剥離や細かな成型に使う。 *エゾシカの角の付け根部(中) ・・・剥片の取り出しや、大型の石器の成型に使う。 *川原の石(右) ・・・原石から剥片を取り出すときに使う。 *皮布 ・・・手を保護するために使う。 |
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原石とこの道具があれば、30cmの大型の尖頭器から1cm以下の小型の矢尻や細石刃も作ることが出来ます。資料によっては、これ以外にもさまざまな道具が紹介されていますが私は不要と思っています。実際、原産地の遺跡に足を運んでみると、道具はよりコンパクトで持ち運びに便利なことが最優先されるように感じます。 |
3.石器をつくる | ||
原石から剥片をとり出す | ||
握りこぶしよりやや大きめの原石(約2kg)の上部を小石のハンマーでできるだけ平に加工し、上部に打撃を加える。この時の打撃のコツは、瞬間的な力・・・野球でいえばスナップを利かせた投球。 うまくたたけば「ピシッ」という打撃音がし剥片が取り出せる。 |
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剥片 | ||
取り出した剥片が均一な板状なら大成功。しかし、これが以外と難しい。石器づくりでもっとも難しいのはこの板状の剥片を原石から剥がすこと。はじめのうちは、原石一個はバラバラになり一枚取れるかどうか?しかし、石の剥がれる性質は次第に掴み取ることができるはず。 ちなみにこの剥片もすでに石器である。鋭いカミソリのような刃は、新聞紙なら2〜30枚は軽く切れてしまう。 |
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剥片の大まかな成型 | ||
取り出した剥片を皮布で支え、剥片の周囲を角の先端で砕き大まかな形をつくる。このときの作業は剥離ではなく、砕く作業である。 | ||
大まかに成型された剥片 | ||
なんとなく矢じりっぽいが、刃はついていない。 | ||
押圧剥離による成型 | ||
角の先端を、成型した剥片の側面にあて、板状の石の下側に向け瞬間的な力を加える。この時、下に向けた角度と力の大きさにより、石が剥がされていく。押圧剥離と言われている技法である。単に板状の石を砕くと厚さを残したまま小さくなってしまうが、押圧剥離では石を剥がすことにより、鋭い刃をつくりながら薄い板状に成型されていく。 角度や力の加え方は、文字表現が難しい。観察と経験しかないと思う。 |
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完成した矢じり | ||
完成した矢じり、はじめに取り出した剥片と比較すると2分の1から3分の1くらいの大きさになる。 初めのうちは、1時間かけても1本も作れないかもしれない。しかし、何回か繰り返していくうちに、コツがつかめてくる。それほど大きな力を必要としないこともわかってくる。 「ジャリッ」「ガサッ」という砕ける音から、「ピシッ」という音に変わった時が縄文の記憶がよみがえりつつある瞬間である。 |
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石器づくり Q&A
質問1 原石を割ろうとしても全然われません。原石から剥片を取り出す時のポイントは? |
答え 石の割れる角度など性質を示す画像と解説を追加してみましたのでご覧下さい。この作業は石器づくりで一番難しい技術です。 |
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ポイント その1 | ||
黒曜石の原石に矢印の方向から打撃を加えると、 打撃面に対して、50〜60度の角度で割れます。 原石のサイズ 10×5cm |
黒曜石の割れる角度 |
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ポイント その2 | ||
ハンマーとなる石は楕円の石です。私の場合は右の画像のような石と、もう一回り大きなものを使っています。 原石に打撃を加えるコツは、上記でも説明しましたが、スナップを効かせた瞬間の打撃です。一瞬にエネルギーが伝わるような・・・。なんと言えばよいのか? そう太鼓を叩く時のような・・・。 |
サイズ 8.5×5cm楕円 |
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ポイント その3 | ||
実際に、縄文セットの原石(1Kg)程度のものから、剥片を取り出してみます。角度を意識して打撃を加えてください。原石にすでに打撃面に対し60度程度の角度がある場合は、それほど大きな力は必要なく剥片を取り出せます。ただし、原石のどこにも適当な角度が無い場合は、最初に、ポイントその1のように大きく割って、角度のある部分を確保する必要があります。 | ||
・とは云っても、コツをつかむまで、石を割ることは本当に難しいと思います。まして、板状の剥片を取り出すことは大変です。 でも、何万年も前の人間に出来たことです。根気よく挑戦すれば必ずできるはずです。 |
質問2 | ||
原石から剥片を取り出すことは、なんとかできるようになりました。 でも「押圧剥離の技法」が理解できません。 くわしく教えて下さい。 |
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答え 現代人が物を削る時、彫刻刀やカンナで「木などを削る」ことを思い浮かべると思います。 石器づくりの剥離技術は、それとは全く異なります。 言葉では表現するのが難しいので図に示してみました。 黒曜石の割れ方の特性を利用し、図に示した角度で力を加え((瞬間的な力で)、石を剥がす・・・それが押圧剥離です。 はじめは、なかなかコツがつかめないかも知れませんが、繰り返し練習してみて下さい。 |
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