飲み友だちの鷲さんから「たまぁ〜に飲もうよ!」と声がかかった。糠平温泉の老舗「湯元館」のオーナーである。
時々誘われていたが、いつも糠平温泉には車で行くので、飲まずに帰ってきていた。
「泊まっていけばいいべさ。」と云われても、宿で宿屋のオーナーと酒を飲んで一泊するってことが、なんか後ろめたく・・・だからと云って、普通に宿代を払うと「友だち同士」というより「お客様」になってしまう・・・それも変だと思うと、後ろ髪を引かれる思いでお断りせざるを得なかった。
それが、今回はなんかふたりで飲みたくて「ふぁ〜」とOKしてしまった。
土産代りに薩摩の焼酎を二本持って伺うと、半袖シャツを着た鷲さんが待っていてくれた。
もうすぐ夏だというのに天候不順で北海道は30℃を越えたと思ったら、突然12℃になったり・・・不穏な日々が続いていた。
この日はハッキリ云ってすごく寒かった!
開口一番、「なんか今日寒くないかい?」と云うので「かなり寒いけど、鷲さん寒くないの?」と聞くと「かなり寒い!」と答えた。「長袖の服着たら」と云うと「そうだなぁ」と云って着替えた。
なぜ、「寒い寒い」と云いながら半袖でいたのか??? 未だに謎なのだ?
朝、釣ったばかりのオショロコマの甘露煮とウドの金平を肴に宴ははじまった。
山菜採りに行って熊に出会ったときの話、正しい酒の飲み方から糠平温泉のめざすべき方向、十勝の農業問題・・・酔いが回るにつれ・・・話は何故か、だんだん難しくなっていった。
そして、酔いつぶれる直前に出た話が、ちょっと前の新聞に出ていた、霜降り肉のクローン牛の話題。
「どう思う? クローンって結構抵抗あるけど・・・牛の霜降り美味いよなぁ。」
「昔 農家やったことあるけど、霜降りの牛育てるってかなり大変だぞ。」
「クローンでみんな霜降りならいいんでないべか。」
と肉好きの鷲さんは云った。
さっきまで、妙に意見が一致していたが・・・。
「霜降りって、高いからあんまり喰ったことないけど・・・。」
「クローン牛喰った後どんな影響が出るんだかわからないし・・・。」
「ボクは、ちょっと疑問だなぁ。」
・・これでは、酒飲みの会話としては答えにならない・・・。
かなり酔いも回って来て思考が停止しかかっていた。
だけど「クローン牛賛成派が増えて万が一北海道の牛がクローン牛だらけになったらヤバイ」と思ったボクの脳裏を「うちの十勝石元気くん」がよぎった。
゛十勝石元気くんが、みんな同じ顔の元気くんだったら、お金出して買ってくれる人なんていない。゛
「あのさぁ、やっぱりクローンはやめた方がいい。」
「安いけどまずい肉と、まあまあの肉、高いけど霜降りの肉があるから霜降りは美味い肉ってことになるじゃないの。」
「だけど、全部クローンで霜降りの肉ばっかりになったら、それが普通の肉になって・・・」
「人間だって、頭いいやつ、普通のやつ、ちょっと悪いやつがいるから、頭いいやつが目立つけど、クローンでみんな頭良くなったら頭いいやつが普通のやつになるんじゃないの!」
もう、ほとんど半分眠っていたと思われる鷲さんが、こっくりとうなづいてボソッと一言、「そうだなぁ、みんな俺やあんたみたいなやつばっかりになったら世の中面白くないよなぁ〜。」
この寒いのに「半袖のシャツを着て寒い寒いと云っている鷲さんと一緒にされたくないよなぁ〜」と思ったけど・・・寝た。
・・・爆 睡・・・
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